2020年05月05日

ヨハネ研究の森ニュースレターより 「人類史のはなし(2)」

ヨハネ研究の森コースでは、休校期間中、週2回、
ニュースレターを配信し、「人類史」研究の
おもしろさにふれるための情報をお伝えしています。

今回は、このニュースレターの記事のなかから、
「定住」をはじめた人類がかかえてしまった、
ひじょうに大きな問題のおはなしです。

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 人類史のはなし ― 「定住」とトイレの問題 ―(ニュースレター第4号より)
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どうやら、私たち人類が「定住」をはじめたところ、
感染症が、おそろしいものになったらしい、
と、前回おはなししました。

なぜ、ひとつのところに住みつづける「定住」が、
感染症を、おそろしいものにするのでしょう?

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もともと、ヒトが野山を「遊動」しているころから、
感染症じたいは、あるにはあったようなのです。

たとえば、「マラリア」という感染症があります。
これは、蚊(カ)をつうじてうつる病で、いまでも、
毎年、40万人もの人々が亡くなっているという、
たいへんおそろしい病気です。

このマラリアは、ゴリラやチンパンジーにもあり、
人類も、あちこちを遊動しているころから、
この病気をもっていただろうといわれています。

しかし、それでも、ヒトが遊動していたころなら、
感染症は、いまほどおそろしいものでは
なかったはずだ、と考えられているのです。

なにが、感染症を、おそろしいものにしたのでしょう?

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よくいわれる、大きな原因のひとつが、
「排泄(はいせつ)」です。

わかりやすくいうと、うんちやおしっこのことですが、
文字で書くとはずかしいので、「排泄」といいますね。

きたないはなしで、いやだなあ、と思われるかもしれません。
でも、人類史研究では、たいへん重要なテーマなのです。
だから、ちょっとがまんして、おつきあいくださいね。

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ヨハネ生のみなさんは、そのへんの野山で排泄をすませて(!)、
用がすんだら別のところへ歩いていく…といったら、
きたないなあ、フケツだなあ、と思うでしょうか。

ところが、遊動民にとっては、なんの問題もないのです。
なんといっても、もう、排泄したものからは、
どこまでも遠く、はなれていってしまうのですから。

いっぽう、定住する人にとって、これは大きな問題です。
だって、自分の住みかのまわりに、排泄したものが
たまっていってしまうでしょう。

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自分はトイレで排泄しているし、排泄物は、
水で流れてどこかへ行くから、近くになんて
たまったりしない、と思いますか?

水で排泄物を流すのは、「水洗トイレ」ですね。
ところが、日本のトイレのほとんどが水洗式に
なったのは、つい最近のこと。

ほんの数十年前まで、日本のトイレのほとんどは、
排泄したものを、しばらく家のタンクにためておき、
あとから遠くへうつす、「くみとり式」でした。

もし、「くみとり式」を使ったことがないのなら、
ご家族にたずねてみてください。きっとご存じですよ。

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それに、水洗トイレだって、まったく簡単ではありません。
たとえば、東京だけでも、1000万人もの人がいるのです。

それだけの人が、毎日、たくさんのものを排泄しています。
一人ぶんでも、なかなかけっこうな量のはずなのに、
1000万人分の排泄物、はたして、どれだけになるでしょうか。

いまや、これだけの量の排泄物を、海や川に、
そのまま流すわけにはいきません。
かといって、ためておいたら、町じゅうが、
みなさんの排泄物でうまってしまうでしょう。

だから、いまでも、人間は、排泄物の片づけのために、
苦労をかさね、たいへんなエネルギーをそそいでいます。

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「定住」をはじめた、私たち人類にとって、
排泄物は、どうしても近くにあって、逃げたくても
逃げられなくなってしまったものの、ひとつなのです。

自分の住んでいるところに、排泄物がたまっている。
これが、感染症のおそろしさを、一気に大きくします。

ヒトの近くにある排泄物や、それによって汚れた水は、
排泄物からうつる、さまざまな感染症や、寄生虫による病気を、
「定住」する人間たちに、もたらすことになりました。

これが、「定住」によって、感染症がおそろしいものと
なった、ひとつめの原因といわれています。

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そもそも、私たちヒトは、本来、どこかに定住して、
きめられた場所で排泄するタイプの生き物ではありません。

イヌやネコなどは、もともと、巣で暮らす生き物でした。
だから、巣では排泄をせず、ちょっと離れた、しかも、
きまった場所で排泄するクセを、もとからもっています。

イヌやネコを飼っている人は、ちょっと教えてあげれば、
トイレの場所を、すぐに覚えることを知っているでしょう。

そうやって、清潔に、元気に暮らす能力が、
イヌやネコには、本能的に、そなわっているのです。

しかし、サルやウシ、ウマなどは、巣をもたず、
歩きながらでも、食事をしながらでも、したくなったら、
どこでも排泄する、というクセをもっています。

みなさんも、牧場のウシが、ところかまわず排泄をする、
そんなすがたを見かけたことがありませんか?

ヒトも、もともとは、サルのように、いつでも、どこでも、
ガマンせずに排泄するタイプの生き物だといわれます。

ほんとうは、私たちヒトの体は、排泄ひとつとっても、
「遊動」むきにできているのでしょう。

だから、みなさんが赤ちゃんのころ、ご家族は、
トイレで排泄する習慣をつけるために、かならず、
たいへんなご苦労をされているはずですよ。

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人間は、「定住」することで、排泄にたいして、
とんでもなく大きな苦労をしょいこみました。
感染症は、その苦労のひとつなのです。

たかが排泄、されど排泄。
ぜひいちど、人類史と排泄について、
自分のからだからも、ふり返ってみてはいかがでしょう。

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  本のおすすめ
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西田正規『人類史のなかの定住革命 』(講談社学術文庫)
 ※人類はもともと掃除や片づけができないことも、よくわかります。
 
posted by stjohns at 12:00 | ニュースレター